最近のマンション紛争と裁判

趣旨説明


大野 武(明治学院大学法学部・教授





 本分科会において取り上げる報告の論点は次のとおりである。


 花房報告は、マンションの各住戸のドアポストに政党ビラを配布する目的で無断で建物内の共用部分等へ立ち入った行為が、刑法130条前段の住居侵入罪に該当するとすることが妥当であるかについて、刑法130条の「住居」性や「正当な理由がないこと」という要件の該当性を検討し、加えて、当該行為に対して刑事犯として処罰するだけの「可罰的違法性」があるか否かも問題とする。その上で、そのような行為に対する刑事罰が憲法21条の表現の自由(ここでは政治活動の自由)を制限するものとなるかについて検討する。


 南部報告は、いわゆるタウンハウスで各区分所有者が自己の専有部分の直下の土地を所有する形式の区分所有建物(分有型連棟式建物)において、特定の区分所有者が自己所有の建物部分を切り離して解体し、新たな独立した新建物を建築したという事案につき、まず、建物の専有部分と共用部分の関係および建物と敷地利用権の関係について法制の沿革とこれまでの学説を踏まえて検討する。その上で、特定の区分所有者による自己所有の建物部分の解体・独立の新建物の建築といった行為が区分所有法6条の共同利益背反行為に該当するとした上で、同法57条に基づく新建物の撤去請求が認められるべきか否かについて検討する。


 佐々木報告は、前区分所有者による水道料金等の滞納について特定承継人にも請求できるとする規約の規定は、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないので、特段の事情のない限り、管理組合の規約をもって定めることはできないとした本件判決につき、まず、そもそもこのような規約の定めが許されるのか否かについて先例を踏まえて検討し、また、どのような場合に「特段の事情」に該当するのかについて検討する。そして、そのような規約の定めが有効な場合、管理組合の滞納区分所有者に対する水道料金等債権は区分所有法7条の先取特権に該当し、同法8条に基づいて特定承継人にもその効力を及ぼすことができるかについて検討する。


 佐藤報告および松澤報告が取り扱う判例は、権利能力なき社団であるマンション管理組合が,同マンションの一室の賃借人の同居人が共同灯の電気を同室に引き込んだため、規約に定める共同の利益に反する行為をしてはならない義務を違反するとして、履行補助者の理論に基づき同室の賃貸人である区分所有者に対し債務不履行に基づく損害賠償を請求したという事例である。この判例においては、管理組合の当事者適格の有無と賃貸人である区分所有者の債務不履行の成否が争点となるが、佐藤報告では主として前者の争点について、松澤報告では主として後者の争点についてそれぞれ検討をする。
 前者の争点については、権利能力なき社団の性質をもつ管理組合は実体法上,訴訟法上の位置づけが明文化されていないことに加え,区分所有関係においては個々の区分所有者や管理者という管理組合以外の請求主体が想定され一つの事象を複数の請求権として構成しうる場合もあることから,管理組合の当事者適格が問題となっていた。佐藤報告は、本判決を検討することを通じて、管理組合の当事者適格の問題について包括的に検討する。
 一方、後者の争点については、本判決が管理組合と区分所有者との間に「契約類似の関係」を認めた上で、賃借人(および同居人)の故意過失を「利用補助者の故意過失」と同視して、賃貸人である区分所有者の債務不履行責任を肯定できるとするところに問題がある。このような事案においては、本来、管理組合は賃借人に対し区分所有法6条および60条に基づく差止請求ならびに民法709条に基づく損害賠償請求がなされるべきところ、松澤報告では、管理組合が行使できる権限とはどのようなものかという視点から考察することにより、本判決について批判的に検討する。


 以上の各報告は、いずれもマンション居住に関わる重要な事案であり、各担当者の研究成果として報告するものである。

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