マンションを費用負担から考察する

趣旨説明


青木 伸一(マンション管理士





司会・趣旨説明 
青木伸一 マンション住環境街づくり研究委員会 事務局長・マンション管理士


コミュニティに対する管理組合の役割と費用負担に関する社会学的覚え書き
田中志敬 福井大学 助教


マンション管理組合協力金制度の導入実態に関する調査報告
新目幸三 日本マンション管理株式会社 代表取締役・マンション管理士
西山博之 特定非営利活動法人 日本住宅管理組合協議会 理事


都市環境の変化から見た超高層マンションの計画と管理
—人口減少社会で顕在化する管理リスク—
松本恭治 松本地域再生研究所 代表


米国における管理費・修繕積立金の取扱いにかかる規制について
山根聡子 株式会社 都市・計画・設計研究所
祢宜秀之 マンション管理士




 「地域社会の中でマンション居住の持続可能性は如何に担保されるか」が、当分科会報告を行うマンション住環境まちづくり研究委員会の基本問題意識である。
 この観点から、今年度は、マンション居住の持続可能性を担保する重要な要素である「運営資金」(金銭)面に着目し、標記のテーマにて研究に取り組んだ。
 マンションでは、区分所有者から管理費、修繕積立金、その他の徴収金(「管理組合協力金」等)として徴収された管理組合の運営資金が、日常管理や維持修繕等の徴収目的(使い途)別に適切に支出されることによって、その快適な居住が維持されている。
これらの管理組合の運営資金は、必要額が適切な手続きにより徴収され保管されているか。目的別の支出金の使い途や、期待された効果に齟齬はないか。本分科会は、これらの運営資金をマンションの区分所有者の「費用負担」として認識する視点から幾つかの個別テーマを選択し、検討を加えた研究報告である。




田中論文は、マンションの「コミュニティに関する支出」について論じる。複数人が居住する区分所有建物(共同住宅)には、当然に居住者間のコミュニティ(共同生活の営み)が形成される。国交省のマンション標準管理規約には、管理費の使途として「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」が挙げられ、管理組合が当然に支出する経費(費用)として、実務上でも定着している。近時、国交省の検討会がこれに異を唱える論者により中断し、日本マンション学会が声明を出すなど、各方面に波紋を残したことは記憶に新しい。この入り組んだテーマを、「費用負担」の視点から、地域社会学者の切り口で考察する。




新目・西山報告は、平成22年の最高裁判決で、「住民活動協力金の上乗せ徴収」が容認されたことを契機に、いわゆる「管理組合協力金制度」導入の実態について、判決後の導入事例、それ以前からの徴収事例の計35事例について、導入時の動機(期待する効果)と金額、導入後の評価等について書面及び聞き取りにより調査を実施、その結果を報告する。「役員のなり手不足対策」の面が強調されるこの制度だが、名ばかりの理事への「不公平感の是正」を導入の成果に挙げる回答が多い実態等が明らかにされる。恐らく、わが国初の実態調査として注目される。




松本報告は、「超高層マンションの落日は、立地選別が激しく行われる結果、今から10年から20年で超高層スラムが出現し、社会問題化する。」と予見する。超高層マンションの修繕積立金に焦点を当て、その重要性に言及する。兵庫県内の超高層マンションの実地調査を踏まえた地域間の立地比較の分析の結果から、特定の地域から修繕積立金の不足によるスラム化超高層マンションが出現する必然性を説く。




山根・祢宜論文は、わが国の多くの管理組合が、管理会社に管理費等の収納保管業務を委託している実態を踏まえ、米国のコミュニティ・アソシエーション(管理組合)における管理費等の徴収(保管?)の仕組みの実態を紹介し、日米の徴収・保管方法の比較を試みた意欲的な共同研究である。比較結果から、わが国の「管理会社口座での一時預かり」の現状と問題点を明らかにし、現行制度の改善を示唆する。


 今回は、これら3論文と1報告により、マンションを「費用負担」の側面から考察する。

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